本年度ミステリ・ランキングの大本命! 1.『火のないところに煙は』 芦沢央さんの純粋な初ホラー小説で、今のところの最高傑作でしょう。 実話を元に作られたのか、全くの創作なのかわからなくなるタイプの内容で、とにかくハラハラが止まらない。 「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」——突然の依頼に、作家の「私」は過去の凄惨な体験を思い出します。彼女は、事件を小説にすることで解決の糸口を探ろうとしますが……。  以前つぶやいてくださったご感想を、期間中に再度投稿していただいても結構です。 すべての画像・データについて無断使用・無断転載を禁止します。, 本年度ミステリ・ランキングの大本命! この面白さ、《決して疑ってはいけない》……。. この面白さ、《決して疑ってはいけない》……。「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」。突然の依頼に、かつての凄惨な体験が作家の脳裏に浮かぶ。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。作家は、事件を小説にすることで解決を目論むが――。驚愕の展開とどんでん返しの波状攻撃、そして導かれる最恐の真実。読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリ! 「たとえば、『殺人鬼がいるから俺は一人で部屋にいる』という人物を書くと、読者は『自分ならこんなことはしない』となって、その後にどんな怖いことが起ろうともそれらはすべて他人事になってしまいます。そうしないため、登場人物の心情や行動に説得力を持たせられるように論理の穴を埋めていきました」 「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の「私」は、かつての凄惨な体験を振り返る。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。「私」は、事件を小説として発表することで情報を集めようとするが―。予測不可能な展開とどんでん返しの波状攻撃にあなたも必ず騙される。一気読み不可避、寝不足必至!!読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリ! 「神楽坂をテーマにした怪談を書きませんか?」。「小説新潮」からの依頼に、作家である「私」は8年前、友人を介して受けたある女性からの相談を思い出す――。こうして始まる芦沢央さんの新刊『火のないところに煙は』が、「怖すぎる!」「実話?  感謝の気持ちを込めて、1月23日(水)から3月3日(日)までの期間中、Twitterで「#火のないところに煙は読みたい」を付けて感想をつぶやいてくださった方に、本編がさらに怖くなる【幻の神楽坂怪談】をプレゼントいたします。 ハッシュタグ「#火のないところに煙は読みたい」を付けて感想をつぶやいてくださった方に、ダイレクトメッセージで【幻の神楽坂怪談】芦沢央さんの掌編3本のpdfデータがダウンロードできるurlを送らせていただきます。 Amazonで央, 芦沢の火のないところに煙は。アマゾンならポイント還元本が多数。央, 芦沢作品ほか、お急ぎ便対象商品は当日お届けも可能。また火のないところに煙はもアマゾン配送商品なら通常配送無料。 解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出し… 『火のないところに煙は』(芦沢央) のみんなのレビュー・感想ページです(249レビュー)。 作品紹介・あらすじ:本年度ミステリ・ランキングの大本命!  驚愕の展開とどんでん返しの波状攻撃、そしてすべての謎が繋がった時に立ちのぼる恐怖。読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリです。, 「怖くて仕方ないのに、ページをめくる手を止められない」「『怖いもの見たさ』とは、まさにこのこと」……昨年6月の刊行から、読者のみなさまを震えあがらせてきた芦沢央さんの怪談ミステリ『火のないところに煙は』が、2019年本屋大賞にノミネートされました。これもひとえに、この作品の魅力――つまり、ずば抜けた怖ろしさ――をTwitterで続々つぶやいてくださった読者のみなさまのおかげと、心より御礼申し上げます。 Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。. 『火のないところに煙は』で本屋大賞ノミネート。 『許されようとは思いません』続々重版中。 もっとも次作が待たれる作家の、実に2年ぶりの長篇大作! ※ご意見・ご感想以外は、https://www.bunshun.co.jp/contact/ から各部門にお送りください。, ご希望のデータがダウンロードできない場合や、著者インタビューのご依頼、その他の本の紹介に関するお問合せは、直接プロモーション部へご連絡ください。, 雑誌・書籍の内容に関するご意見、書籍・記事・写真等の転載、朗読、二次利用などに関するお問合せ、その他については「文藝春秋へのお問合せ」をご覧ください。, コロナ後の世界ジャレド・ダイアモンド ポール・クルーグマン リンダ・グラットン マックス・テグマーク スティーブン・ピンカー スコット・ギャロウェイ 大野和基, 居酒屋で店員を呼んでも気づかれない、注文をよく聞き返される…そんな経験ありませんか? 『声が通らない!』ほか, ジャレド・ダイアモンド ポール・クルーグマン リンダ・グラットン マックス・テグマーク スティーブン・ピンカー スコット・ギャロウェイ 大野和基, 渦巻く疑念、さまよう殺意……。“どんでん返しの女王”が放つ、衝撃のアートミステリー!, 「オール讀物」編集部「<芦沢 央インタビュー> ミステリー界のフロントランナーが贈る最高のサスペンス」.  みなさまのご参加、心よりお待ちしております!, (1)芦沢央『火のないところに煙は』/新潮社公式 Twitterアカウント(@hinonaikoushiki)をフォロー, (2)作品の感想をハッシュタグ「#火のないところに煙は読みたい!function(d,s,id){var js,fjs=d.getElementsByTagName(s)[0],p=/^http:/.test(d.location)?  ご応募は、上記期間中のツイートに限らせていただきます。 千賀稚子にはかなわない(kadokawa『小説 野性時代 vol.156』2016年11月号) 終幕(書き下ろし) 火のないところに煙は(2018年6月 新潮社) 染み(新潮社『小説新潮』2016年8月号) お祓いを頼む女(新潮社『小説新潮』2017年2月号)  担当者がメッセージを確認してから返信するため、感想をご投稿いただいてからデータが届くまでに少々お時間をいただく場合がございます。何卒ご了承くださいませ。 芸術にすべてを懸けた男たちの、罪と罰。エンタメ界のフロントランナーが渾身の力で書き上げた、慟哭のノンストップ・ミステリー!「世界のホンダ」と崇められるカリスマ芸術監督率いるダンスカンパニー。その新作公演三日前に、主役が消えた。壮絶なしごきにも喰らいつき、すべてを舞台に捧げてきた男にいったい何があったのか。“神”に選ばれ、己の限界を突破したいと願う表現者たちのとめどなき渇望。その陰で踏みにじられてきた人間の声なき声……。様々な思いが錯綜し、激情はついに刃となって振るわれる。『火のないところに煙は』で本屋大賞ノミネート。『許されようとは思いません』続々重版中。もっとも次作が待たれる作家の、実に2年ぶりの長篇大作!, 本書をお読みになったご意見・ご感想をお寄せください。投稿されたお客様の声は、弊社ウェブサイト、また新聞・雑誌広告などに掲載させていただく場合がございます。, ※いただいた内容へのご返信は致しかねますのでご了承ください。 こんにちは、ブクログ通信です。 12月4日、静岡県内の書店員・図書館員がみんなで選ぶ「静岡書店大賞」(通称sst)の第7回受賞作が発表されました。活字離れと本離れが叫ばれる昨今、「このままではいけない。なんとかしなければいけない。」との念に 【幻の神楽坂怪談】は、2018年8月のイベント「芦沢央×冨安由真 納涼! 神楽坂怪談ナイト in la kagu」会場にて配布された掌編3本と同内容になります。, 1984(昭和59)年、東京生れ。千葉大学文学部卒業。2012(平成24)年、『罪の余白』で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。ほかの著書に『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『火のないところに煙は』などがある。, Copyright © SHINCHOSHA All Rights Reserved. 火災は同時に煙が出ます。火のまわりよりも、煙の方がずっと速く、命を奪う事が多いのです。そこで、煙にスポットを当てて避難のポイントを考えてみましょう。 まずは、煙のスピードですが、煙の上昇速度は毎秒3m~5mにもなります。 。クラウドに好きなだけ写真も保存可能。, この商品は、quickshop 横浜店が販売し、Amazon Fulfillment が発送します。, このショッピング機能は、Enterキーを押すと商品を読み込み続けます。このカルーセルから移動するには、見出しのショートカットキーを使用して、次の見出しまたは前の見出しに移動してください。, ちよっと作りすぎかと思います。生理的な怖さより、理屈っぽい怖さが優先されているか と思います。, 怖いんだろうか、これは。 たしかに読み始めて前半の緊張感とか、何かヤバいことが始まる感の演出はあって期待を持ったんだけれども。 結局、本題に入らないで終わってる気がする。 「世にも不思議な・・・・」的なものが好きな若い人の創作で、思わせぶりで終了させているところが浅いと思う。 この本に限らず、アイデア一発で売る本が多くて残念です。, 評判で買ってみましたが、今の時代の評判は周り、メディアの先導なんだろうな!と、思う内容でした。, なかなかホラー小説を読んで怖いと感じる事は無いのですが、これは怖かったです。ネタバレになるので内容には触れませんが、構成が素晴らしいです。一読あれ。, あまりの怖さとゾクゾク感に世間で話題になっており、中毒者続出とあるので大いに期待したのですが、全然期待したものと違ってました。, あまり怖くなかった、場面が換わりすぎてストーリーに集中できない。ページを早く進めたい感覚がない。, ホラーとミステリーが丁度いい具合に混じり合って、先へ先へと読み進んでしまう。オカルト要素もあるので、謎解きは完結しないが、ホラー小説だからそれぐらいが丁度いい。, 商品詳細ページを閲覧すると、ここに履歴が表示されます。チェックした商品詳細ページに簡単に戻る事が出来ます。, © 1996-2020, Amazon.com, Inc. or its affiliates. 日常的な身の回りの出来事から、世界を揺るがすニュースまで、本が扱うテーマは森羅万象。四季折々の年間イベント、仕事、暮らし、遊び、生きること、死ぬこと……。さまざまなテーマに沿う本の扉をご用意しました。扉を開くと読書の興味がどこにあるのか見えてきます。, 〈とんぼの本〉は、1983年の創刊。 美術、工芸、建築、写真、文学、歴史、旅、暮らしをテーマにしたビジュアルブック・シリーズです。, 一冊の本には、他のいろいろな本とつながる接点が隠れています。100年前の物語や、世界の果ての出来事と、実は意外な関係があるのかもしれません。本から本へ、思いがけない出会いの旅にでてみませんか。どのルートを選ぶかは、あなた次第です。, 「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」。突然の依頼に、かつての凄惨な体験が作家の脳裏に浮かぶ。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。作家は、事件を小説にすることで解決を目論むが――。驚愕の展開とどんでん返しの波状攻撃、そして導かれる最恐の真実。読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリ!, 「小説新潮」から短篇小説の依頼を受けたのは、二〇一六年五月二十六日、『許されようとは思いません』という本の再校ゲラを戻し終えたまさにその日だった。, ゲラから手が離れたところを見計らって、という文面に、さすが依頼のタイミングが絶妙だなと感嘆しながらも、残念ながら今回は断るべきかもしれないと考えた。スケジュールが詰まっていたこともあるが、特集テーマが「怪談」だとあったからだ。, 私は怪談やホラー小説を読むのは大好きではあるものの、自分で書いたことはない。読者を怖がらせるということはとても難しく、技術がいることだと感じていたし──何より咄嗟(とっさ)に頭に浮かんだあ(・)る(・)体(・)験(・)を怪談として書いてしまうことに抵抗を覚えたのだ。, その奥のクローゼット──なぜか仕切りが細かく作りつけられてしまっているために洋服は収納しづらい──にしまい込んだままの一枚のポスター。それはある広告代理店の社用封筒に折り畳んで入れてあり、封筒の口は仰々しい御札で閉じられている。, 引っ越しや大掃除のたびに処分を検討しながら、毎回とりあえず保留してきてしまったのは、完全に自分の目の届かない場所へ遠ざけてしまおうとすることに後ろめたさを感じていたからだ。手放そうとするたびに、忘れるつもりなのか、と手が止まった。全部なかったことにして、そのまま何食わぬ顔で生きていくつもりなのか──, ホイールをほんの少し動かすと、パソコンの画面が大きくスクロールした。〈怪談特集企画書〉という添付ファイルが現れ、内臓が微かに縮こまる。やっぱり無理だ、とほとんど反射的に思った。, 企画書を開いたのは、辞退する理由を探すためだった。スケジュール的に厳しいというのが一番角が立たないだろうかと考えながらワードが立ち上がるのを待ち、そこで私は動きを止めた。, 〈今年は新潮社の位置する神楽坂を舞台にした作品を集めた「神楽坂怪談」特集を予定しております〉, 偶然だ、と思おうとする。企画書にもある通り、神楽坂は新潮社がある土地なのだし、風情のある小道が多いから怪談の舞台としてふさわしいのだろうと考えようとする。けれど考えるそばから、そもそもどうして私に話が来たのだろう、という思いも浮かんできてしまう。私はこれまで怪談を書いたことはないし、書きたいと口にしたこともない。なのに、なぜ、私にこんな依頼が来たのか。, ずっと、心のどこかで引きずり続けていながら、それでもきちんと向き合わずにきてしまった出来事。なぜ、あんなことになってしまったのかわからないままだというのに、原因を追及しようとせずにいたのは──そうすることで、自分にできたはずのこと、自分がするべきだったことを知ってしまうかもしれないからだ。, あのとき私がああしていれば、と後悔することになるのが怖かった。だから、あのことについて整理して考えることもなく、人に語ることもしてこなかったのだ。, 書類が詰め込まれた箱の裏から封筒を取り出すと、封を開けるまでもなくまぶたの裏に浮かんだのは、小さな染みだった。, 私が、大学時代の友人である瀬(せ)戸(と)早(さ)樹(き)子(こ)に紹介されて角(つの)田(だ)尚(なお)子(こ)さんに初めて会ったのは、今から八年前のことだ。, 新卒三年目だった私は実用書や雑学本、ビジネス書の編集者として中野にある出版社で働いていた。, 当時は今ほどSNSが盛んではなかったが、私は、少しでも多くの人の手に取ってもらえるようにという願いを込めて、毎月SNSで自分の担当した本の宣伝をしていた。, 〈久しぶり。また面白そうな本を担当しているんだね。ところで、この榊(さかき)桔( きっ)平(ぺい)って人、いいお祓(はら)いの人とか知っていたりする?〉, そのとき宣伝していた本は、オカルト話や都市伝説をまとめた雑学本だった。著者の榊さんは普段、オカルト雑誌や怪奇現象を扱ったムックなどに寄稿しているオカルトライターだ。, 私は深く考えないままに返信してから、〈っていうか、お祓いって、どういうこと? 何かあったの?〉とさらに打ち込んで続けて送信した。数分も経たないうちに、早樹子から返信が来る。, まずは榊さんに連絡を取ってみようとしたものの、メールの返信はなく、電話も繋がらなかった。携帯やパソコンを持たずに遠方の取材に行ってしまったりする人なので珍しいことではないが、いつ連絡が取れるようになるのかは見当もつかない。早樹子にその旨を伝えると、それならとりあえず先に話だけでも聞いてもらえないかということで、早樹子、角田さん、私の三人で会うことになった。, ちょうど全員が東西線の沿線で働いていたので、互いの勤務先の間を取って飯田橋で会うことになった。どうせなら神楽坂の方がお店が選べていいのではないかと提案したのだが、早樹子ができれば神楽坂の方には近づきたくないからと言って、飯田橋東口にあるチェーンの居酒屋を指定してきたのだ。どうして近づきたくないのかと尋ねると、それが本題なのだと言う。私もそれ以上は尋ねるのをやめ、店選びは早樹子に任せることにした。, 当日、店員に案内されて個室へ入ると、早樹子の隣には質のいいジャケット姿のすらりとした女性が座っていた。角田さんだろうか、と思うのと同時に、彼女はすばやく立ち上がって慣れた仕草で名刺を取り出す。, 同い年とは思えないほど、しっかりした人だった。渡された名刺には広告代理店の名前があり、私の名刺にある会社名を見た途端に「今朝の日経と読売に新聞広告を打っていらっしゃいましたよね」と口にする。, そう言って如才なく微笑み、早樹子が「二人とも、そんなにかしこまらなくていいよー」と語尾を伸ばして言うと、ほんの少し照れくさそうに表情を崩した。, 早樹子は角田さんと私を交互に示しながら、「こっちは高校の同級生、こっちは大学の同級生」と紹介する。角田さんと私は「こっちって」と揃って苦笑し、そのまま顔を見合わせてもう一度笑った。私は、この人とは気が合うなと直感する。突っ込みの強さやテンポが似ている。, 私たちは本題に入る前に乾杯をし、しばらく雑談をした。共通の友人である早樹子とのエピソードや、仕事でどのくらい残業があるかといったことなどだ。お互い集まりやすい場所にいるのだから、これからも仕事帰りに飲んだりしようと盛り上がったりもし、私は何度か、そもそもどうして角田さんを紹介されたのだったか忘れかけた。普通に友達と飲みに来たようなノリで恋愛話に話題が移り、早樹子がいつものように大学時代から交際している恋人についての愚痴を披露する。そして、その流れで、角田さんは「今日の相談の話とも繋がるんだけど」と声のトーンを落として話し始めた。, 結婚、という単語に反射的にはしゃいだ声を上げそうになったが、私はかろうじて思いとどまる。彼女の言い方が過去形だったし、何より表情が楽しい話ではないと告げていたからだ。, 「つき合い始めて半年くらいの頃、結婚したいねって話が出たんです。今考えれば早かった気もするんですけど」, 「あ、でもわかる。むしろつき合い始めて半年くらいの方が結婚話とかも盛り上がるよね」, 早樹子が言い、「これ、私が言うと説得力が違うでしょ」と自虐的に笑った。実際、早樹子の場合は「長すぎる春」という表現がぴったりで、同棲を始めて五年になる恋人との間で結婚話が進まないという愚痴をつい先ほど口にしたばかりだったのだ。早樹子のおどけた仕草に、角田さんも頬を緩めた。, 私は思わず身を乗り出す。それはほとんど職業病だった。当時はスピリチュアル本が全盛でたくさんの占い師が本を出していたので、よく当たる占い師ともなれば名前を聞いたことがある人かと思ったのだ。, 「名前はわからないの。ただ、神楽坂の母って呼ばれている人で……見た目はどこにでもいそうな普通のおばさんで、着ている服も怪しげなローブとかじゃなくて小花柄のチュニックで、髪型もよくおばさんがやってるパーマっていうか……ソバージュっていうのかな? そういう感じなんだけど、全然笑わなくて妙に目つきが鋭くて、何かオーラがすごいっていうか。ほら、神楽坂にロイヤルホストとか松屋とかがある四ツ辻みたいになっているところがあるでしょ。あの奥にあるマンションの四階でこぢんまりとやってるんだけど、看板は出してなくて、ホームページがあるわけでもなくて」, 「私も友達から教えてもらったの。政治家とか芸能人とかもこっそり通ってるっていう話で」, 私は声を弾ませた。もし、まだ本を出したことがない人であれば、自分が最初の本の執筆を依頼することもできる。, 早樹子の答えに、私は落胆した。インターネットで調べれば何か情報が得られるかもしれないけれど、仕事の依頼をするハードルは格段に上がる。私は、とにかく帰ったら調べてみよう、と思いながら、「早樹子も何か占ってもらったの?」と何気なく訊いた。, 知りたいと思ったというよりも、何となく話の接穂として尋ねただけだったが、早樹子は一瞬視線を泳がせた。「うん、まあ」という歯切れの悪い答えに、この場ではあまり話したくないことなのかもしれない、と気づく。もしかしたら、「長すぎる春」の彼のことかもしれない、と思ったので、私もそれ以上は追及しなかった。, 「ごめんね、話の腰を折っちゃって。それで? 角田さんはその占い師のところに行ったんですか?」, 「そうなんです。その結婚を考えていた彼と一緒に、二人の将来を占ってもらいに行って」, 「そうしたら、『不幸になる』って断言されたんです。『結婚なんてしない方がいい』って……私、びっくりしちゃって。すぐには何も言えませんでした。実は本格的な占いをしてもらうのはそれが初めてだったんですけど、何となく占いってこっちが望んでいる言葉を口にしてくれるものだと思っていたから」, 私は短くうなずく。私自身は仕事以外で占い師に会ったことがあるわけでもなかったが、以前、ある占い師の方から「コールド・リーディング」というテクニックについて教えてもらったことがあったのだ。, 「コールド」とは「準備なしに」という意味で、「リーディング」とは、「読むこと」──この場合は、「相手の情報を読み取る」ことを意味する。つまり、事前情報なしに相手と会話をし、その外観や言葉尻などから相手の情報や気持ちを読み取って言い当てる話術のことだ。言い当てられた方は「どうしてそんなに私のことがわかるんだろう」と驚き、その人が超常的な力を持っているものと信じてしまうのだという。, そうして相手の情報を言い当てながら、「相手が言ってほしい言葉」を口にすれば、顧客は喜んでお金を払い、「よく当たる占い師だ」と考えてくれるのだとその占い師は言っていた。人が占いの結果を聞きたいと思うときというのは、大抵何かの迷いを抱いているときであり、その人が望んでいる答えを読み取って「それが正解だ」と口にしてあげるだけでいいのだと。, もちろん、すべての占い師がそうした手法を取っているわけではないだろう。だが、突然思いもしなかった答えを突きつけられた角田さんの驚きは想像できなくもない。, 「でも、それが占いの結果ならば仕方ないじゃないですか。嫌な気持ちになったし、こんなことなら聞かなきゃよかったとも思ったけど、聞いたのは自分たちです。だからとりあえずお礼を言ってお金を払って帰ろうとしたんですけど……彼が、怒り出しちゃったんです。ふざけるな、デタラメ言いやがってって大声で怒鳴って……そんなふうに声を荒らげるところなんて見たことがなかったから、すごくショックでした。占いの結果よりもよっぽどショックで……この人と結婚して大丈夫かなって不安になってきちゃったんです」, 角田さんはどこか疲れた顔でそこまで言ってから、ビールを勢いよくあおった。身体の中に溜まった何かを吐き出そうとするように息を吐き、テーブルにジョッキを置く。, 「結局、彼はそのまま私の腕を引いてお金も払わずに出てきちゃって、その後も一日中その占い師の悪口を言っていました。それを聞いていたら、段々うんざりしてきちゃって。それまでは結婚するならこの人しかいないって思っていたのに、急に気持ちまで冷めてきちゃったというか」, 角田さんは過去の記憶を消そうとでもするかのように、ジョッキの口を親指の腹で何度も拭った。, 「それで、半分冗談、半分本気で『別れようか』って切り出したんです。『あの占い師も、あんなふうに言ってたし』って言えば、彼のプライドを必要以上に傷つけることもないかもしれない気がして……でも逆効果でした。彼は『あんなババアの言うこと信じるのかよ』ってますます怒って、私をすごい目で睨(にら)みつけて、『別れるなら死んでやるからな』って言い出して」, 私は、生唾を飲み込む。どうリアクションすればいいのかわからなかった。もし、元彼のエピソードとして笑い話のように聞かされていたら、一緒に笑って「うわー、あり得ない」と言っていただろう。だが、私は「お祓いをしたい」というそもそもの話に引っかかっていた。「お祓い」という単語、そして「死んでやる」という言葉。まさか、と思いながらも上手く相槌を打つことができない。, 「次に会ったとき、手首に巻いた包帯を見せられました。『今回は失敗したけど、おまえがまた別れるとか言うなら今度は本当に死ぬよ』って……それまでは、まだ彼のことが好きな気持ちもあったんですけど、それで完全に気持ちが冷めました。それからは、もうどうやって穏便に別れるかしか考えられなくて」, 角田さんが、そこでふいに声を震わせる。泣き出してしまうのか、と思ったが、泣くことはせずに唇を噛んだ。, つらかっただろう、と思う。一時は結婚を考えるほど好きだった人なのに──いや、だからこそ、ダメージは大きかったはずだ。別れるなら死ぬ、というのは脅し以外の何物でもない。彼は、彼女の意志を無視して、ただ自分の気持ちを押し通そうとした。それで、信頼関係が損なわれないわけがない。, 「どうすればいいのかわかりませんでした。別れたいけれど、別れたら死なれてしまうかもしれない。彼がどこまで本気で言っているのかわからなくて……どうせポーズで言っているだけで本気で死ぬ気なんてないんだって思ったり、でも何かの弾みで本当に死んでしまったらどうしようって思ったり……結局、別れ話は撤回するしかありませんでした」, あのとき、私はどうするべきだったんでしょう、と続けられ、答えることができなかった。一度別れ話を切り出したなら、どんなにつらくても撤回などせずに押し通すべきだ、というのは、ただの正論にすぎない。, 「それからは、会うたびに気まずい空気になりました。夜中に電話がかかってきて、『今すぐ会いたい。会ってくれなきゃ死ぬ』って言われるんです。彼は車を持っていたけれど、不安定になるのは大抵お酒を飲んだときだから私の方が呼びつけられて……私は車どころか免許も持っていないから、いつもタクシーで彼の家に行くしかありませんでした。内心うんざりしながら、一応それは隠して会うんですけど、会ったら会ったで『本当は会いたくなかったんだろ。もう俺のことが嫌いになったんだろ』って言われて……『そんなことないよ』って言っても納得してくれなくて、延々と『本当のことを言え』って言うから、『正直、明日も仕事で朝が早いから夜中に呼びつけられるのは困る』って答えたら、『おまえは俺より仕事の方が大事なんだな』って泣かれて……」, 「やっぱり何度聞いてもやばいよ、その話。尚子はよく頑張ったよ。私だったら絶対もっと早く投げ出してたと思う」, 「結局こんなことになってしまうなら、最初にきっぱり突き放していた方がよかったのかもしれない。私が思いきれなくて会い続けちゃったから……」, 角田さんはそれ以上は続けなかったが、私はもうその先の結果がわかっていた。おそらく、彼は死んでしまったのだろう。だからこそ、この話は過去の笑い話などではなく、「お祓い」という話に繋がってくるのだ。, 「だけど、その日はどうしても行く気になれませんでした。こんな生活がいつまで続くんだろう、彼はどうしたいんだろうって考えたら、何だかもう本当に嫌になってしまって……翌朝に大事なプレゼンがあったというのもあるんですけど、それ以上に先が見えないことに疲れ果ててしまったんです」, 最後、という言葉に、私はボールペンを握った手に力を込める。みぞおちを強く押されるような圧迫感を覚えた。, 「彼からのメールには返信せず、そのまま携帯の電源を切りました。とにかく何かが変わってほしかった。このままの関係を続けることには耐えられなくて……これでもう、今日は眠れる、と思いました。少なくとも、今日はあの人の家には行かなくて済む。朝まで延々と責められなくていい。ゆっくり自分の部屋で眠って、明日のプレゼンに備えられる……そう思いながら、結局一睡もできなくて、それでも携帯の電源を入れる気にはなれませんでした。そのまま会社に行ってプレゼンを無事に終えて……携帯の電源を入れたのはお昼休みでした。何十件も着信が入っていることを予想して恐る恐る通知を確認したんですけど、予想外に彼からの連絡はなくて……なんだ、こんなことならもっと早く無視しておけばよかったんだって拍子抜けして、でもやっぱりすごく安心して」, 目撃者の話によると、角田さんの彼は車で神楽坂を上る途中、突然何もないところでハンドルを切って神楽坂仲通りの電柱に突っ込んで亡くなったのだという。彼はこの日お酒を飲んでいなかったため、飲酒運転による事故ではなかった。警察が出した結論も、自殺だろうというものだったそうだ。, 「私があの日、ちゃんと彼の家に行っていればって……だけど、一番申し訳なかったのは、どこかで仕方なかったという思いもあったことなんです。あんな関係が一生続けられたわけがないんだからって、そう思って納得してしまおうとする自分に罪悪感がありました」, 私は思わず言葉を挟む。本心だった。たとえその日ではなかったとしても、彼女はいつか、彼の要望に応えられなくなっていただろう。そして、それは彼女が悪いわけではない。, 「さっき早樹子も言っていたけど、角田さんはよく頑張ったと私も思います。つらいでしょうし、すぐに気持ちの折り合いをつけるのは無理かもしれませんけど、」, 「電車の中吊りポスターとかです。ああいうのの枠をクライアントに売って、その手配をするっていう」, 何の話が始まるのかわからずとにかく相槌を打つと、角田さんは交通広告のシステムについて説明を始めた。, まず、広告代理店としては「この路線のこの場所にこのくらいの期間掲示するならいくら」という形で広告枠を販売しており、クライアントはそれを買うという構図になっている。中吊りポスターやステッカー、ドア横ポスターや車体広告など、多様な媒体があり、期間も二日間や一週間、ひと月など様々だ。, 東京メトロの場合、それらの広告物は一度すべて神楽坂にある集積所に集められることになっており、そこから作業員たちがそれぞれの線の始発駅まで持っていって、一斉に貼り替えていくのだという。, 大抵の場合、広告代理店は広告物の制作にも関わっており、クライアントの意向を汲み取りながら広告物をデザインする。完成したデザインデータを印刷所に入稿するまでが直接の仕事で、その後、刷り終わった広告物が無事に集積所に納品されて期日通りに掲出されたかについては、確認こそするものの、各々の段階に立ち会いはしない。, けれどある日、ドア横ポスターを契約したクライアントから、ポスターに汚れがついているというクレームが入り、集積所に行かなくてはならなくなったのだという。, 「ポスターの上で赤黒いインクをつけた筆を振ったみたいな小さな染みが、点々と飛んでいたんです」, 一見、そうしたデザインだと思えなくもなかったが、一枚一枚見比べると染みのつき方が違う。クライアントの名前の上にかかってしまっているものもあり、クライアントが怒るのも当然だった。, 剥き出しで垂れ下がるタイプの中吊りポスターなら掲示後に汚されてしまった可能性もあるが、ドア横ポスターは額の中に入れるため最初から汚れていたとしか考えられない。, 角田さんは低頭平身してクライアントに謝り、大急ぎで現物を確認して印刷所でポスターを刷り直してもらった。そのままその場で中身を確認して自ら集積所に運び込んだという。, 「原因はわからなかったんですが、対応が速かったということでクライアントもそこで怒りを収めてくれました」, 印刷所のミスかもしれないということで、刷り直しの費用も印刷所持ちで対応してもらえたそうだ。, 「それも、私が担当しているクライアントのものにだけ続くんです。印刷所を変えたり、納品物を集積所に運ぶ前に確認させてもらったりもしたんですけど……なぜか貼り出した後になって汚れが発見されることが続いて」, 角田さんは鞄から一枚のポスターを取り出した。清涼飲料水の広告だ。若手女優が顎を反らせてペットボトルをあおっている。, 私は、女優の頬にほくろのように散った染みを見つめた。たしかに一つ一つは大きなものではないが、無視してこのまま使えるほどさり気ないものでもない。, 「こないだ高校の同窓会があって、私もそこで尚子からこの話を聞いたんだけど、ちょっと気持ち悪いよねって話になって……しかも、ある子が嫌なことを言い出したの」, 八百屋お七とは、江戸時代に実在した八百屋の娘で、井(い)原(はら)西(さい)鶴(かく)の『好色五人女』に取り上げられたことから広く知られるようになった話である。, 天(てん)和(な)の大火で焼け出されたお七は親と共に正仙院に避難した。寺での避難生活の中で、お七は寺小姓の庄之介という男と恋仲になる。やがて店が建て直されるとお七一家は寺を引き払うことになったが、お七は庄之介を忘れることができなかった。そしてお七はもう一度庄之介に会いたい一心で自宅に放火をする。再び自宅が燃えれば、また庄之介がいる寺で暮らすことができると考えたのだ。, 異常な動機だが、だからこそお話としては面白い。ホワイダニット──動機が謎のミステリでも時折出てくるモチーフで、「八百屋お七」は「愛しい人に会いたいがために罪を犯す」ことの代名詞にもなっている。, 「死んだ彼が、尚子に会いたい一心でポスターを汚して神楽坂に呼びつけているんじゃないかって言うの」, 「言われてみれば、たしかに神楽坂には東京メトロの広告物がすべて集まる集積所がありますから、広告物に何かトラブルがあれば私は神楽坂に出向くことになります」, 角田さんと早樹子は、それが死んだ彼が起こした怪異だと信じ込んでいるようだった。だが、私は手放しにその説を受け入れることはできなかった。なぜなら、まだ人為的なものである線が否定できないからだ。, 生きた人間が、何らかの目的でポスターを汚したという可能性もある──いや、その方がよほど信憑性のある説に思えた。, そもそも、私は怪奇現象というものを無条件に信じてはいない。それは、私自身が幽霊や超能力を見たことがないというのもあるが、怪奇現象を紹介する本を読み始めるのとほとんど同時に、そうしたものに対して論理的な説明をつける本も読んできたからかもしれない。, 誰もいないのに物が動いたり音がしたりするというポルターガイスト現象の正体が地盤沈下や水道管の故障だったとか、コックリさんで指が動くのは参加者の潜在意識や筋肉疲労によるものだとか、そうしたタネ明かしのような話を読むのには、ミステリの解決編を読むのと同種の面白さがあった。, もちろん、どうやっても説明がつかないこともこの世の中にはあるのだろうし、私が見たことがないからといって、幽霊や超能力が存在しないと言いきることはできない。だが、それでも私は、まずは超常的な説明ではなく論理的な説明を求めてしまうたちだった。, 「ですがたとえば、その集積所の人や作業員がやったというような可能性はありませんか」, 「別に角田さんに恨みがあるとか、嫌がらせでやったんじゃないかと言いたいわけではないんです。何かまったく別の動機があるかもしれませんし、」, 角田さんは私の言葉を遮った。それ以上は続けずに鞄に向き直り、小さなルーペを取り出す。一見するとカメラのレンズにも見えるようなそれがルーペだとわかったのは、私自身が日常的に使っているものだったからだ。本のカバーやポスターなどのカラー印刷では、赤、青、黄色、黒の四色の点が網目のように重なることで様々な色を表現している。ルーペはその点が潰れたりずれたりしていないかをチェックするための道具だ。, 黒と赤を混ぜたようなインクの染みに見えた汚れには──無数の文字が書かれていたのだ。, あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ。あやまれ──, 人の仕業であるわけがない、と私も認めざるを得なかった。文字は印刷ではなく手書きのようで、しかも、人が書ける大きさの文字ではない。, 「でも、謝れと言われても彼はもういません。お墓には謝りに行ったんですけど……それでも、同じことが起こるんです」, 角田さんは鞄を見下ろす。思わずつられて視線を向けると、そこには榊さんの本があった。, 「だから、この本の著者の榊さんという方に頼んでもらいたいんです。誰か、いいお祓いの人がいたら紹介してほしいって」, その場でも榊さんに改めて電話をしたのだが、彼と連絡が取れたのはその三日後のことだった。, 案の定、携帯を忘れて取材に出てしまっていたのだという。不審死が続くという旅館が期待外れだったことを勢いよく語り始めたところを制して用件を告げると、榊さんは『もってるねえ』と声を弾ませた。, 『こういう面白い話が転がり込んでくるかどうかって、運なんだよ。しゃかりきになって集めても集まらない人には集まらないし、集まる人には集まる。お手柄じゃないですか』, 嬉々とした口調に、角田さんは困っているのだから喜んでいる場合じゃないですよと言いたくなったが、どこかで気持ちが少し軽くなったのも事実だった。榊さんが面白がっているのであれば、それほど怯えることもないのかもしれないと思えたのだ。, 現物を見てもまったくたじろがない榊さんに、私は頼もしさを感じた。彼に任せれば、何とかなるかもしれない。, 榊さんはあっさりとうなずき、紙や本が山積みになった机の上から名刺ホルダーを探し当てた。ちらりと目を向けると、名刺は飛び飛びに差し込まれているだけであとは名前や電話番号、住所が書かれた付箋が貼られている。, 私は三日の間にまとめておいたメモを開くと、順番に経緯を話していった。ひと通りの説明を終えて顔を上げ、そこでようやく榊さんの眉間に皺が寄っていることに気づく。, いや、と榊さんは名刺ホルダーを見つめたまま口を開いた。だが続きを待っても、そのまま何も言わない。, 「これから言う話は、あくまでも単なる思いつきです。当たっている保証などどこにもありません」, 榊さんが、私を見た。目が合ってから、私はそれが珍しいことであるのに気づく。榊さんは軽快な語り口に反して、人と目を合わせないタイプだった。, 「神楽坂は、午前零時から正午までは坂を下る東方向に、正午から午前零時までは坂を上がる西方向にしか走れない。つまり、その男が車で神楽坂を上(・)っ(・)て(・)いたんだとすれば、それは零時よりも前の話だったということになる」, 言われてみれば、以前タクシーの運転手からそんな話を聞いたことがあった気がする。だが、私は車も運転免許も持っていないこともあり、あまり意識したことはなかった。, そう言えば、角田さんも運転免許を持っていないと言っていた。だから彼女も、気づかなかったのかもしれない。, 「だとすれば、その男は角田さんが約束の時間までに来なかったから自殺した、というわけじゃなかったことになる」, 「次に気になったのは、その男が突っ込んだのが神楽坂仲通りの電柱──つまり、占い師のいる四ツ辻だったということです」, 「神楽坂の母、見た目はどこにでもいそうな普通のおばさん、着ているのは小花柄のチュニック、髪型はソバージュ、全然笑わなくて妙に目つきが鋭い、神楽坂のマンションで占いをやっているが看板やホームページはない──俺も、噂に聞いたことがあるだけで、実際に会ったことはないんだが……もし、それが俺の知っている人のことだとしたら」, 「その男は、あの人を怒らせたのかもしれない。それで、その日──その四ツ辻で何かを見た」, 男の死は、自殺ですらなかったのかもしれない。男はその何かから逃れようとハンドルを切り──そして、死んだ。, 「まったくの見当違いの可能性ももちろんあります。でも、もしかしたら、お祓いよりもまずあの人に謝りに行った方がいいのかもしれない」, 私は榊さんにお礼を言って立ち上がり、その場で角田さんに電話をかけた。まだ仕事中の時間ではあったが、伝えるのであれば早い方がいい。, だが、携帯にかけても繋がらず、会社にかけてもその日角田さんは休みを取っているということでつかまらなかった。私は榊さんの事務所を辞し、携帯で長いメールを打った。打ち終わった文面を読み返し、語尾や表現を少し直し、送信する前にもう一度だけ電話をしてみようと画面を切り替えたところで──携帯が鳴る。, それは、角田さんが前日の夜中、突然悲鳴を上げて車道へ走り出し、車にはねられて亡くなったという早樹子からの連絡だった。, 早樹子に榊さんの言葉を伝えるかどうか迷ったものの、結局伝えないことにしたのは、あの占い師のことを角田さんに教えたのが早樹子だったからだ。元凶がそれだったかもしれないとなれば、責任を感じてしまいかねない。, 一点気にかかっていたのは早樹子自身もあの占い師に会ったことがあるらしいということだったが、早樹子の場合は、例の「長すぎる春」の彼とこのまま付き合っていていいのかと尋ねて『このままで大丈夫だから絶対に別れたらいけない』と答えられたため、特に揉めるようなこともなかったという。, 恋愛成就を祈(き)祷(とう)したという御札も買い、占い師からも『またいつでもいらっしゃい』と見送られたらしい。, それなら彼女は大丈夫だろう、という榊さんの言葉に、私はその場でしゃがみ込みそうなほど安堵した。なぜなら、榊さんに調べてもらったにもかかわらず、あの占い師が今どこにいるのかという情報はまったくつかめなかったからだ。謝ろうにも謝る方法がない状況で、もし早樹子も危険だということだけがわかってしまっていたらと思うとゾッとする。, その後も、早樹子から怪異に見舞われているという話をされることはなく、約二年が過ぎた。, その頃には私が郊外に引っ越していたこともあり、何となく仕事帰りに飲みに行く機会もなくなっていたが、それでも数カ月に一度くらいのペースでは会っており、彼女が仕事を辞めてイギリスへ留学することにしたという話も直接会って聞いていた。, 新生活への期待を口にし、彼とはこれを機に別れることにしたけれど、彼は彼で新しい趣味に没頭し始めたところだったからか拍子抜けなほどあっさり了承してくれたと苦笑する早樹子は、本当に憂いなく見えた。, 早樹子は日本を発つほんの数日前に、交通事故で亡くなった。そして、彼女のお通夜で耳にしたのは、早樹子が突然何かを叫びながら車道へ飛び出したらしい、という話だった。, 偶然にしては、共通点がありすぎる気がした。角田さんの元恋人も、角田さんも、早樹子も、みんな交通事故で亡くなっているということ、事故の直前、急にハンドルを切ったり叫んだりしていたらしいということ。, あの占い師を怒らせてしまったせいだという仮説が間違っていたのだろうか。しかし、もしそうだったとしたら、本当の原因とは何だったのか。, それは、早樹子の死から六年経った今もわかっていない。あの占い師が、今どこで何をやっているのかも、わからないままだ。, ただ、一つわかることは、私はあのとき判断を間違えたのだということだった。私は、早樹子に榊さんの言葉を伝えるべきだった。たとえ、それで早樹子が角田さんの死に責任を感じることになってしまったとしても、きちんとすべて話をして、その上で占い師とのやり取りについて改めて尋ねるべきだったのだ。, そうしていれば、本当の原因がわかっていたかもしれない。──早樹子は、死なずに済んだのかもしれない。, 私はここまで書いて、なぜ自分がずっとこのことと向き合わずにきたのかがわかった気がした。, 私は、既にあの頃から、この可能性に気づいていたのだろう。だからこそ、考えたくなかったのだ。, 早樹子は最期の瞬間、何を見たのか。そのときに感じた恐怖は、どれほどのものだったのか。, 考えれば考えるほどに、自分が保てなくなっていくことがわかっていた。知ろうとすれば、きっと、その途方のなさに飲み込まれてしまう。, それは、日頃「死」というものについて突き詰めて考えないようにしているのと似た感覚だった。考え始めると、まずい、とほとんど本能的に思う。これ以上進んだら、もう戻れなくなってしまうかもしれない。, 知りたくない、という気持ちと、知らなければならない、という思いが、今も私の中でせめぎ合っている。, この機会を逃せば、おそらく私は再び考えまいとし始めるだろう。日々の忙しさにかまけて、見ないふり、気づかないふりをし続けるはずだ。, これを読んだ方の中で、「同じような話を聞いたことがある」「この人物を知っている」など、何か思い当たることがあれば、「小説新潮」編集部宛にご一報いただけたら幸いである。, 今年の夏は例年以上に過酷な暑さです。暑くて仕方がない……そんな時には「体感温度が5℃下がる」、「背筋のゾクゾクが止まらない」とSNSで大評判となり、発売即重版の怪談ミステリはいかがでしょうか。